ジェノサイド再び

 甘かった。先週掃除機を購入し、二三日部屋の隅々までそれをかければダニも大概はいなくなるだろうと高をくくっていたのが大間違い。電気スタンドの頂点には相変わらず奴らが闊歩し、テレビの上に置いてある小物入れ用カゴをひっくり返すとそこは数十匹の温床。中の保険証のビニールカバーには粉を噴いたように密棲。指の腹でポロポロこそげ落とす感触がむしろ心地好い。挙句が押入れから茶色のコートを引っ張り出すと、あたかも満天にきらめく星々の如く、数百匹、いや、数千匹のダニがびっしりとへばり付いている。最後の手段、つまり燻蒸。家計圧迫もなんのその、バルサン(及び洋服棚用防虫剤)を購入、室内にて噴射。数時間後、帰宅すると確かにいつもの部屋がこころなし閑散としている。死滅の音が聞こえるようである。もっと早めに手を打っておくべきだったか、いやしかし、奴らはまだ消え失せてはいない、なぜなら現にいましがたこの指でテーブルの上に這い回る数匹のダニを押し潰したばかりだからである。