カッコいい活字とはつまりこのこと

 前に古本屋で買っておいた平岡正明の『ジャズより他に神はなし』を思い出したように読み進めているのですが、まあこれが面白いのなんの。1971年に出た本なんだけど、いまではこんなの出版できないんでしょうなあ。っていうのは、単に差別用語が使ってあるとかマリファナ(原文では「マリハナ」)を吸った際の自己の変容をつぶさに記してあるとかそういう「キワモノ」的な意味ばかりではなく、全体に漂う過剰なほどに知的で攻撃的なムードがですね。いまでも有名人への名指しの個人批判はブログや巨大掲示板で目にすることは珍しくないけれど、それはほとんどの場合匿名であり、「炎上」に見られるような単に祭りに便乗したようなものも少なくないのですが、この時代の平岡氏の同業者である音楽評論家数名への舌鋒の鋭さといったら! 後年のナンシー関のTV批評なんかとはまたちがい、来るなら来い逃げも隠れもしねえぜ、というケンカ腰が美しい。当時は実際に紙上での往復的な罵倒合戦があったようで、そういうのもいまはありませんよね。少し40年前の空気が羨ましかったりします。