覚え書

 最近読んだ島田雅彦のエッセイから。

酒飲みというのは、腹は減っているが、食べずにいたり、あるいは腹の足しにはならないものばかり選んで食べたりという、子どもからすれば不思議な状態を生きている。(中略)酒を飲んでいる間というのは、満腹というのはあまりいい状態ではない。いわば食欲というものをある程度コントロールしながら、奇妙な快楽を獲得しようとする。それが飲酒なのだ、とくにこの国においては。
(中略)日本に限らず、居酒屋のつまみというのは、小さい皿に少しずつ盛りつけ、どの料理とどの酒が合うといったコンビネーションまで考え出していくゲームなのだ。味覚というのは抽象化された概念の記憶ではなく、体に直接感じるショックだから、味は細胞の記憶として残る。結果的に内蔵が鍛えられ、舌が鍛えられ、鼻が鍛えられるわけだ。
(『郊外の食卓』1998)

いくら貧困にあえいでいおうとも、美味しいものを食べる(探す・つくる)、或いはそうしようと試みるということがいかに重要なことか。それは日を改めて書きたいと思います(酔)。