献血

 一念発起。新たな職を探すための第一歩として、履歴書用の顔写真を撮ろうと思いました。もはや無職の自分にとってスーツを着る、という一事をもってしてもこれは大変な一大決心が無ければ出来ないことでして、これまでサラリーマン経験のない自分が持っている2着のスーツはどちらも冬用の生地の厚いゴワゴワしたやつで、もちろん半袖ワイシャツなんかも持っていません。それを着てネクタイをギッと締めて、駅のキヨスクの横にある証明写真マシーンに向かいました。汗ダラダラ流しながら。
 で、中に入ってムワッとくる密閉感に堪えカーテンを閉め、髪を整えてさて撮影に移ろうと紙幣投入口に千円札を入れようとするがこれが入らない。おっかしぃなぁ、と画面を見ると。
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 との意。クソ!とかシット!とかなんかしてけつかんねんけつくらえ!とかそんな呪詛の言葉も出ずにただ出たのは溜め息。はぁ。暑い。
 でもって、出て駅も出たところ、献血のバスが停まっていて、本日○型の方があと何人必要です、お願いします、と訴えているその声がなんとも切実でした。そう聞こえてしまいました。現在無職の私が物品消費以外に出来る数少ない社会への貢献。献血。これだ。
 400mlの全血採取に見事成功。久し振りだったけど全然平気でした。はぁ〜、今日は良いことしたなー、汗だくだし帰ってシャワーでも浴びて……、ってあ、まだ血が出てるからやめといた方がいいかな、献血のお陰で女の子の気持ちもちょっと分かっちゃった、得した得した、さて今日は働いたから昼寝でもしよ。なんて結局は詰まらない俺。だから仕事も無い俺。せめて今日抜いた自分の血が有効に利用されますように。もしくは利用されずに済むような平和が世間に訪れますように。新しくマシーンを見つけて撮った顔写真は吃驚するほどの笑顔でした。